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柏谷聡研究室:研究紹介・実験設備・学生へのメッセージ

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研究概要

研究紹介動画 (物理工学セミナー(柏谷研):2020/11/20)

研究概略紹介動画(7分)詳細な研究紹介ビデオ(50分:物理工学セミナー)
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 近年の身の周りの電子機器、半導体製品、磁石、太陽電池、超高強度材料などは、物質中の電子の持つ力をいかんなく発揮させることで実現してきました。物質材料科学や物性物理の分野では、その電子がどのようにしてその機能が発現しているか、どうしたらさらに性能を伸ばせるか、どうしたら常識では考えられないさらなる機能(新奇物性)引き出せるか、などが調べられてきました。通常、電子の機能は原子の並び(結晶構造)で決まってきます。ところが、異種の物質の個性がぶつかり合う場である接合系(表面・界面)は、原子の並びが急に変わるため、もともとの物質の中身(バルク物性)とは異なる機能を生み出す可能性があります。そこでは簡単には実現できない原子の並びや界面特有の性質を使うこともできることから、表面・界面は物質の新機能性を発現させる新奇物性の宝庫舞台として着目してきました。
本研究室では、表面・接合系におけるナノオーダー現象の観測を通して、表面・界面に特有な電子物性を解明し、その知見を基にした機能デバイスの開発研究を行っています。特にトポロジカル物質という表面に特殊な電子状態が出現する物質系や、通常の超伝導とは異なって表面・エッジ状態を持つ非従来型超伝導状態の開拓に注力しております。これらの物質系は、今までにない高機能な電子デバイスや量子コンピュータを作り出すことができたり、素粒子物理学の分野の人も注目するような基礎物理の研究の舞台としても注目を浴びています。基礎と応用の両方の観点からも魅力的な研究舞台です。
 研究としては、超伝導体、トポロジカル物質、原子層物質等のスペクトロスコピーによる物性解明、接合系の輸送特性解明、量子効果デバイス・高感度センサーへの応用研究を進めます。 研究のフェーズとしては主に3つの研究の進め方があります。①結晶育成:研究に使用する対象物質を一からつくり、これまでに見つかっていなかった高機能物質を探索する(単結晶化・物質開拓)。②接合化:単結晶を微細加工プロセスなどで電子の動きを追える微小接合を作製する。③極限現象測定:狙った特性を観測するために装置から自作し、計算シミュレーションも駆使してこれまで未発見だった現象を観測する。 このように柏谷研究室では物質から、接合、装置まで自身で改良を加えることで高品質・高性能な新物質・新現象を創成します。
Keywords: 単結晶育成、接合、超伝導、トポロジカル量子現象、高感度センシング、熱電発電、ジョセフソン接合

本研究室の特色・独自性
— 複合系物性:新奇な物性発現・機能実現を目指して —

 物質の中の電子機能は原子の並び(結晶構造)で決まってきます。しかし、物質の表面界面では原子の結合が急になくなるため、物質の中身(バルク)とは異なる原子の並びになってしまい、物質本来が持つ特性が失われてしまいます。つまり、物質の「表面では特性が劣化してしまう」というのが常識でした。これを量子力学的な見方で解釈すると、電子の波動関数が中身のバルクと変わって終端される場所となります。ところがこの終端のされ方によっては、かならずある固有の電子状態が存在させることができます。つまり表面では「バルクとは異なる新たな電子状態」が出現する可能性があります。近年ではこのような表面に特有な電子状態が出てくるような物質として「トポロジカル物質」が盛んに研究されるようになってきました。

さらに、2つの物質が出会う場所である界面ではお互いの物質の特性を引き継いだ新たな電子状態が形成されます。そのような電子状態を使うと、通常の電子では決して到達することのできないような高機能や新機能を生みだせる可能性があります。例えば、磁場に超高感度で反応する磁気センサーや、電気エネルギーをほぼ使うことなく情報を伝達する新情報デバイスなどの創生が期待されています。つまり、界面は新しい電子機能の宝庫と言えます。
他方で、物質Bをよく知っている特性の物質を持ってきてその界面の特性を調べると、性質がまだわかっていない未知の物質Aの特性を調べることもできます。特にこの物質Bとして「超伝導体」を使ってあげると、超伝導体特有の性質を使うことで物質のAの磁気情報や位相情報を知ることができます。当研究室の柏谷教授はこの超伝導体を使った「超伝導接合」を長年研究し、超伝導接合を使って超伝導体の電子状態(準粒子状態)や超伝導体の界面状態、超伝導体の位相情報を調べることのできる手法を新たに開拓・確立し、普通ではない非従来型超伝導やトポロジカル超伝導の研究分野の先駆けとして多大な影響を与えてきました。(R2年度文部科学大臣表彰 科学技術賞)このように、よく知っている物質Bを使って、未知の物質Aを調べる場としても界面はとても興味深い研究の舞台となっています。


もう少し詳しく研究紹介
— トポロジカル物質とは?非従来型超伝導とは?超伝導接合とは? —

~トポロジカル物質とは~
電子は通常2π周期の波動関数として記述されますが、トポロジカル物質では波動関数の位相情報に”ひねり”が入ることで通常の電子とは大きく異なった性質が物質の内部や表面(エッジ)に出現します。
トポロジカル物質の代表例として「トポロジカル絶縁体」があります。トポロジカル絶縁体にはバルク(物質の中身)は絶縁体(半導体)ですが、その表面には質量がゼロの光速で動く電子がでてきます。さらにこの電子はスピン分極していて、磁石としての性質をも持ち合わせます。なにより驚きなのがこの電子状態は”必ず”出てくるため、表面が酸化などして劣化しても”必ず”存在することです。そのような驚異的な性質を持つ電子が劣化せずにでてくるということで世界中の多くの研究者が注目しています。このほかにもこの特殊な電子が存在することで様々な電気磁気輸送現象が発見されています。

トポロジカル物質はどんどんその種類が年々増えており、「トポロジカル絶縁体」「ワイル半金属」「ディラック半金属」「ノーダルライン半金属」「アクシオン絶縁体」「高次トポロジカル絶縁体」、、、など様々な種類が見つかっています。いずれの物質も、普通の電子では実現しないような機能や特性を表面やバルクに持つ特徴があり、これらを使ったデバイス開発(新奇メモリーデバイスや超高感度センサーなど)が期待されています。理論的にはこれらのデバイスは超省エネルギーで動作したり、量子コンピュータへの応用も可能であるとして期待されています。

一方で、応用研究だけにとどまらず、基礎物理研究としても大変注目されています。これらの電子状態は素粒子の分野で研究されている未知の素粒子と同じ状態が実現しているということもわかってきました。たとえば質量がゼロの電子はディラック電子と呼ばれ、ディラック方程式に従う電子として知られています。特に大注目されているのが「マヨラナ粒子」という自身が反粒子とされる粒子は素粒子の世界でもいまだ見つかっていない粒子です。それがトポロジカル超伝導の表面に現れるかもしれないとして大変注目を集めています。当研究室ではこのマヨラナ粒子をなんとかして発生させ、さらにはコントロールすることで今の主流とは違った新しいタイプの量子コンピュータの実現を目指した研究も進めています。さらにさらに、これらのトポロジカル超伝導を使うといまだ人類が発見することのできていない「暗黒物質(ダークマター)」にもアクセスできる可能性があるのではないかというチャレンジングな研究も行っています。新しい素粒子の発見は人類の悲願ともいえますが、物質を通じてその性質をしれるという素粒子物理学との異分野融合がトポロジカル物質によってできてしまうという物理的に大変興味深くて”使える”研究舞台になっています。
~超伝導とは~
通常の電子は電流Iが流れると物質の電気抵抗Rの影響を受けてジュール熱としてエネルギーのロス(損失)がおきます。これのせいで発電所が電気を100発電しても家庭には電気が80程度しか届かず、省エネが重要ないま現代においても熱として多くのエネルギーを捨ててしまっています。
「超伝導」は電気抵抗がゼロになる現象で、これによってジュール熱がゼロになるためすべての電線が超伝導体になるとすべてのエネルギーを損失なく運ぶことができるようになります。さらに、超伝導は太陽電池などの直流で発電する自然エネルギーとの相性も良いため、今後増加が見込まれる使う場所で少量ずつ発電するマイクロ発電への応用も見込まれていて大変期待されています。一方で、電気抵抗がゼロなので電線には大電流を流すことができます。その大電流を使って強力超伝導磁石が産業としても多くの場所で活躍しています。このように電気抵抗がゼロになるという性質一つを見ても超伝導が社会の多くの場所で実は活躍していますし、今後も活躍の場が広がると期待されています。

超伝導には代表的な3つの性質があります。ゼロ抵抗はそのうちのひとつの性質でしかありません。ほかにも磁場を完全に遮断する「完全反磁性」という性質や、超伝導電流を運ぶ電子がおなじ位相で運動していく「巨視的量子効果」という性質があり、これらの性質も様々な産業応用が見込まれている重要な性質です。これら3つの性質は通常の電子では決して実現しないとされる性質です。その起源は何でしょうか?
超伝導の根幹は電子2つがペアを組んで「クーパー対」という対を形成することにあります。クーパー対は全員が同じ動き方をするコヒーレントな波として振舞うため、クーパー対はぶつかりません。通常の電子はお互いにぶつかって散乱することで抵抗が生じてジュール熱を発生させますが、クーパー対はそのようなことが起きません。これがゼロ抵抗のイメージです。この2つの電子は通常は逆向きのスピンをもった電子で、お互いに逆方向からやってきて同時にペアを組みます。このペアはどの方向からも(等方的に)組むことができるというのが通常の超伝導体です。しかし、このような普通のペアの組み方をしない超伝導体を非従来型超伝導体といって理論的に様々なものが予言され分類されてきました。等方的なペアの組み方をする従来型超伝導体に対して、ある方向にペアを組みやすかったり組みにくかったりする異方的な超伝導体として代表的なものが銅酸化物超伝導体です。この銅酸化物超伝導体は超伝導になる温度(転移温度Tc)がとても大きい(従来型が30 K程度であったのに対して銅酸化物では180 Kなど)ことや、超伝導体の表面に特殊な表面状態が出現するということがわかってきました。ふつうの(従来型)超伝導だけでも多くの機能や物理現象がありましたが、非従来型超伝導にはさらに多くの謎や"使える"物理現象があるとして長年研究がされてきました。しかし実際の物質としては銅酸化物超伝導体、ウラン系超伝導体などその数は少なく世界中でその新たな候補物質の探索が行われています。
~超伝導接合とは~
2つの物質を組み合わせた接合のうち、超伝導体を使ったものが超伝導接合です。超伝導ならではの特性を活かして超伝導接合では主に2つの特徴があります。超伝導はクーパー対の位相が揃ったコヒーレント波になっている(全体で一つの波になっている)ことから、別の超伝導体と組み合わせると、2つの超伝導体の位相差から電流が流れたり(ジョセフソン電流)、超伝導状態が壊れるエネルギー(電圧)を外部から印加することで超伝導の壊れ方を調べることができます。例えば時計の中身を知ろうと思ったら時計を壊して分解しないと中身がわからないのと同様に、超伝導の仕組みを知りたいと思ったら超伝導体を壊してその壊れ方を調べることで、どのような超伝導状態であるかを知ることができます。このようにそこにある超伝導が非従来型なのか従来型なのかを判別するために超伝導接合を使うことができます。
一方で、超伝導電流は接合界面で急にゼロになることは通常できず、接合のもう一方の物質の中へしみこんでいきます。これを超伝導近接効果といいます。このしみ込んだクーパー対は、しみ込んだ物質の性質を反映して性質が変化して、別の超伝導状態へと変貌することが期待されます。このようにして超伝導と別の物質を組み合わせることで、普通の超伝導とは違った非従来型超伝導を生み出すための場として利用することができます。このように超伝導接合は2つの使い道を柏谷研究室では用意しています。
このような超伝導接合を使った研究舞台として、柏谷研究室では主に3つの研究舞台を用意しています。超伝導体そのものが非従来型と期待される物質を作り、その超伝導体の性質を調査する。そのままでは超伝導ですらない物質にひと手間加えて特殊な環境にして非従来型超伝導状態を創生する。トポロジカル物質などと通常の超伝導体を組み合わせて(超伝導近接効果によって)非従来型超伝導を作り出す。このような3つの戦略で非従来型超伝導へと迫っていくことを目指した研究をしています。


より具体的に、本研究室でめざすもの

本研究室では複合系物性として、物質の表面・界面、複数の物質の接合系の性質の解明と、これらの性質を用いたデバイス応用の開拓を目指します。

1. 研究対象とする物質
・超伝導体(金属、銅酸化物、鉄系、Ru系、トポロジカル超伝導など)
・トポロジカル物質(トポロジカル絶縁体、ワイル半金属など)
・原子層物質(グラフェン、WTe2、MoS2など)
・ナノ物質(ナノチューブ、ナノ粒子)
2. 研究内容
・表面・界面の物性、電子状態研究
・表面・界面の構造、成長機構の研究
・接合系に現れる新物性・輸送特性
・機能化、センシング応用への研究
3. 進行中のテーマ
・接合系による超伝導物性(新奇なペア状態の探索、対称性の決定)
・トポロジカル量子物性(マヨラナ準粒子探索、トポロジカル数検出)
・高感度磁気センサー開発(新物質開拓、センシングデバイス開発)
・暗黒物質アクシオンの検出

研究例

He3 FIB
トポロジカル絶縁体上に形成したジョセフソン接合(超伝導接合)でマヨラナ粒子観測の試み スピン3重項超伝導体Sr2RuO4のエッジジョセフソン接合(超伝導接合)での時間反転対称性テスト
He3 He3 FIB
FIBによるNb系微小スクイッド(SQUID)での高感度磁束測定 銅酸化物超伝導体のスピン偏極トンネル接合 Bi系銅酸化物超伝導体の固有ジョセフソン接合
※※※最近発表したCaAgP系での表面超伝導についての解説はこちら※※※



主な実験装置

柏谷研究室ではほとんどの装置を自前で保有しています。単結晶や接合を『つくる』装置、それらを分析・計算するための『観る』装置、詳細な特性を『測る』装置のそれぞれ各種を保有しています。結晶育成装置から冷凍機、輸送特性測定装置、トンネル接合評価装置、薄膜作成装置、FIB加工装置、環境RHEED装置など。自分たちでもっているからこそ必要に応じて改造したり臨機応変に改良することができます。さらに改造だけではなく、見たい物理現象に合わせて装置をつくることもよくあります。そのような「装置作り」をすることで初めて観測が可能になる物理現象もよくあります。
接合作製の一部は名古屋大学の共用実験設備VBLを利用しています。名古屋大学内の高度な技術をもったエキスパート達(例えば澤研究室、竹中研究室、齋藤研究室、生田研究室、田仲・川口研究室など)と協力することで新たな物理現象の解明にも挑むこともあります。お互いの長所を活かすと思ってもみなかったような新発見にもつながります。その他にも大学外施設として、あいちシンクロトロンや産業技術総合研究所、東京工業大学フロンティア材料研究所などの施設を利用することもあります。

GrowthAndFabrications measurement
「つくる装置」単結晶育成から接合作製まで。目的物質にあわせて育ちやすい環境をデザイン。見たい物理現象に合わせて接合をデザイン。 「観る装置」と「測る装置」単結晶や接合を分析評価し理論計算で観る。
極低温環境での圧力・磁場・電界印加下での輸送特性・接合特性評価


学部生・大学院生募集中!~学生へのメッセージ~

『とにかく、みんなで面白がろう!!』

学生の今しかできない体験としてみんなで「物理」を楽しみましょう! その物理を解き明かす過程では様々な学びがあります。うまくいかないときにどう考えるか、思ってもいなかった測定結果をどう解釈するのか、見たい物理を見れるようにするためにはどうするか。さらには、自分の発見を「人に伝える」ときにはどうしたら伝わるのか。多くの学びを学生でいるうちにぜひ味わって、それを糧に社会でも活躍できる人材に育ってほしいと思います。卒業してから振り返ったときに「大学にいってよかった」と思える学生生活を送ってほしいです。



みんなスタートはゼロから

柏谷研究室での研究に必要な知識やスキルの多くは学部の授業でも扱っていないものがあります。そこで柏谷研のに入ったあと特に4月から夏ころまでは集中的に「物性物理」「無機化学」「電気電子回路」「半導体論」「制御工学」「トポロジカル物質」「超伝導」などの内容を広くおしえる座学をおこなっています。学部レベルの知識を研究の最前線までおしあげられるようにします。その座学の中では研究生活に必要な「論文の探し方」から「論文の読み方」、「発表の仕方」、「図の作り方」、「プログラミング」、「研究を取り巻く社会環境について」など卒業後も役に立つようなスキルを身に着けられるようにします。学生の都合に合わせて時間を調整したりオンラインでの開催もしています。



企業からの社会人博士も募集中!

名古屋大に限らず、全国の大学どこからでも受験を歓迎しています。 以下のいずれかに該当すれば、本研究室での受け入れが可能です。

  1. 固体物理、超伝導、トポロジカル物理、ナノ物理に興味のある学生
  2. 成績はともかくやる気のある学生(一発当てよう!)
  3. とにかく実験の好きな学生
  4. 実験も理論も両輪でやってみたい学生
    (田仲・川口研究室(理論)との連携で、いずれも遂行可能)
  5. 博士課程までじっくり研究をやってみたい学生
  6. 一度就職したけど、やっぱり研究したい方
  7. 全く新しいことにチャレンジしたい学生
    (暗黒物質検出など、チャレンジングな研究も進めます)
  8. 世界トップレベルの研究を目指す学生
    (世界の研究機関への派遣プログラムあります)
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